価値判断をすることで思考を深める
価値判断は、表面的な対立構造の前提にある価値観を深く考察することです。
思考を深めることで、総合型選抜/学校推薦型選抜の小論文で高評価を得ることができます。
大学の評価する柔軟な思考力
主張の前提にある価値観にまで遡って考察(価値判断)するのは、問題をフカボリしてその本質を探ろうとする態度と言えます。
また、対立する様々な価値観を分析して比較するのは、自分の価値観を相対化して客観的に見る態度であり、あらゆる学問の前提です。
人間の価値観について、正しい/間違っているは決められません。
従って、価値判断は非常に悩ましいタスクです。
しかし、大学側は受験生の「悩む姿」を見たがっています。
なぜならそれは、その問題に真摯に向き合って考え抜いていることの証だからです。
大学側は、中身のない形式だけの文章(テンプレ式答案)にウンザリしており、受験生が本気で悩んだ(問題と格闘した)末にどのような結論を出すのかに興味津々です。

慶應義塾大学SFCの小論文問題冒頭の文章は、大学のこのような問題意識を理解する上で大変参考になります。
是非、書店で赤本を手に取って読んでみることをお勧めします。
Step.01 | 問題の所在を分析する |
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Step.02 | 比較考量(利益考量) |
Step.03 | 価値判断の正当化 |

価値観の選択
小論文で価値判断を行う際、どのような価値観を選択するかが答案の方向性を決めます。
ここでは、価値観の選択と、その根拠の示し方について考えます。
価値観の多様性
現代社会において、私たちは様々な価値観に基づいて判断を行っています。
これらの価値観は、しばしば対立します。
例えば、「効率性」を重視すれば少数の人々の権利や利益が犠牲になることがありますし、「伝統」を重視すれば個人の自由の制限につながることもあります。
以下に代表的な価値基準(判断基準となる価値観)の例を示します。

功利主義的価値基準
① 最大多数の最大幸福
② 効率性・生産性の重視
③ 結果(アウトカム)の重視
日本では②のように経済的利益を重視する立場と結びついて理解されています。
ただ、本来の功利主義①は、社会的弱者をも含めたより多くの人々の幸福を目指すという立場で、決して弱者切り捨てや多数派重視の思想ではありません。
義務論的価値基準
① その社会における道徳/倫理の遵守
② 権利・義務の尊重
③ 手続きや基準の公正さの重視
①は社会や共同体の安定を重視する立場、②③は個人を尊重する立場や自由主義と結びつきやすいです。
ただし、ある社会においてどのような行動が道徳や倫理に反するかは、解釈の余地があります。
共同体主義的価値基準
① 伝統や文化の尊重
② 共同体のきずなや調和の重視
③ 社会に対する責任の重視
本来であればこうした価値観と個人を尊重する価値観の調和/バランスが大事なのですが、日本社会では対立構図として捉えらえることが多いです。
しかし、個人の幸福を無視して共同体は成立できないし、個人は共同体に頼ることなく一人で生きていくことはできません。
ここにも小論文答案のヒントがあります。
個人主義的価値基準
① 個人の自由や自己決定の尊重
② 多様性の尊重
③ 経済的な選択の自由の重視
近代的な政治/社会システムの基準となる価値観です。
しかし、グローバルな視点で見れば、こうした人権尊重/民主主義的な価値観を採る国家は実は少数派であることに気づいていますか?
我々にとっての常識が必ずしも世界の常識とは言えない一例です。

価値判断の根拠
小論文の答案では、自分がどのような価値観に基づいて判断するかを明確に示した上で、なぜその価値観を選択するのかという根拠を示すことが重要です。
これは論証構造(AゆえにB))よりも重く、「なぜそれが自分にとって大事なのか」というアイデンティティに関わる問題です。

自分の立場を相対化する
価値基準の選択において重要なのは、自分の立場を絶対視せず、相対化する視点を持つことです。
自分が特定の価値基準を重視するのは、自分の置かれた状況や経験、属性などと関係している場合が多いことを認識し、異なる立場の人々が異なる価値基準を重視することも理解する必要があります。
例えば、経済的に恵まれた環境で育った人は「自由」や「選択肢の多さ」を重視する傾向があるかもしれませんが、不安定な環境で育った人は「安定」や「安全」を重視するかもしれません。
このような背景を理解することで、価値観の対立の本質を捉えることができます。

小論文答案では、このような自己相対化の観点を示すことで、思考の深さと視野の広さをアピールすることができます。
自分と異なる価値基準を持つ人々の立場も考慮した上で、なお自分の価値判断を維持する理由を説明することで、より説得力のある答案となります。
ただし、試験本番では理想通りにいかないこともあります。
そのため、無難に答案をまとめる技術も併せて習得しておくことも必要です。
小論文試験が制限時間内に書かれた答案の優劣を争う競技(勝負事)である以上、攻めることが困難な状況では、手堅く守りに徹することも必要な戦術です。

論理の限界

実は論理的思考には限界があります。
それはまず「答えが決まっている」という点です。
なぜなら論理的思考は「正しい結論を導く思考」だからです。
つまり正しければ「答えはひとつ」になるはずなのです。
パラダイムシフトして新たな発想が必要な時、答えが決まっている論理的思考は無力です。
近時、研究や経営の世界で求められている「ブレイクスルー(現状打破)」や「イノベーション(革新)」は論理的思考だけでは難しいのです。
一方、論理的思考で正しさを導くためには判断材料となる全ての情報が必要です。
しかし、現実の社会では様々な状況が複雑に絡み合い、一個人や組織が得られる情報には限界があります。
つまり、現実社会での論理的思考は、「今手持ちの情報でとりあえず判断する」程度のものに過ぎません。
脱論理/超論理

人が大きな決断をするとき、論理よりもむしろ「直感に頼る」べき場合があります。
例えば、パラダイムシフトが必要、判断材料とすべき情報が少ない、など論理的思考では答えが出しにくいケースです。
ただし、「直感」は単なる「あてずっぽう」ではありません。
人が経験したことや学んだことで脳内に記憶として定着した情報にはリンクが張られています。
それらがいざというとき、言語化されないレベルでの思考やアナロジーを支えます。
したがって、多くのことを経験し学んでいなければ、信じるに足る「直感」は働きません。
だから学ぶことは必要であり重要なのです。
「こんなこと勉強しても将来の役に立たない」という生徒に対して、代表は明確にこれを否定できます。
「それらは全て君が将来人生の決断をするときの判断の基になる。ゆえにより広くより多く学んでおきなさい」と。
なお、論理的に明白に誤っている選択を、「直感」を口実に肯定するの止めましょう。
けっこういるんです、そういうひと…。